両親とも職業が建築家という環境に育った私は、敢えて反抗的に別の仕事を選ぼうと考えていました。
しかし、もともと「計画すること」、「問題解決すること」、「物を生出していくこと」が大好きだったようで、自然と私も建築家になっていました。
大学卒業後は、自分の道を探そうと、母国イタリアから離れて、ニューヨークでの設計事務所勤務の経験を経て、それから日本に来ました。
来日して最初の印象は、建物、自動車、人の衣類などの外見は西洋と大きく変わらないと思ったら、「木」に近づいてみると実際は「竹」でした。「白い鳥」をよく見てみると不思議な目を持つ「サギ」でした。
イタリア人の私にとって異国情緒溢れる詩的で美しい日本に心をとらえられ、この国に落ち着くことにしました。
日本の伝統的な文化にも興味を持ち、農村歌舞伎にも十数回チャレンジしています(下手ですが・・・)。
また、仕事を通じても、茅葺のお寺の改築、古材や土壁のある住宅のプロジェクトに参加しています。四季の変化を素直に受け入れ、自然と共存しようとする、優美で奥の深い日本の伝統建築に、私は魅了されてやみません。
残念ながら、現在の日本の街は空を遮る電柱や灰色のアスファルト、けばけばしい看板で作られているように感じます。昔のような景観の統一性はどこへ行ってしまったのでしょう。
スプロール現象による無限に広がる街の住みにくさを別としても、これでは精神的に落胆してしまいます。
現在の街は不効率でむだが多く、機械に依存して、人が何となく生きているという環境になってしまっているのではないでしょうか。
難しいかもしれないですが、諦めずに日本の街本来の元気を取り戻す手伝いをしたい、というのが私の夢です。もちろん、日本が理想とする街はノスタルジックな昔には存在しませんし、モデルを世界中から探してもきっと見つからないでしょう。
すでに「形」が定まっている「既製品」の中から選択をするという感覚に慣れてしまっているかもしれませんが、今後は「内面」、「本来の意味」、「目的」の再認識を目指すことができれば、環境を大切にしながら人の心を豊かにする街、インテリジェントな街作りに近づいていけるのではないでしょうか。
曾おじいさんたちが当たり前としていたように、季節の移り変わりやそれに伴う風の向き、また材料の特徴や効率よい使い方を熟考し、インテリジェントな家を作りましょう。私の母国イタリアでは、「設計」というと建物建築だけではなく、小物やインテリアのデザインを含めて生活により密着したイメージがあります。ですので、機能性を求めることにより、形は自然と出来上がっていくという考え方が一般的です。
「アイランドキッチン」という名称のキッチンを選ぶのではなく、「手打ちパスタが簡単に作れるキッチン」を作りたい・・・「白い」壁の家を理想とするのではなく、「お月様に触れるみたい」な壁に仕上げたい・・・という風に視点を変えて考えていくことにより、今まで気付かなかった目的もみえてきます。
また、広い視野で見ると、「家を建てる」ことは街の一部を作ることになると私は考えたりもします。
建物は壁があるゆえに内面と外面が存在します。家を建築すると同時に通りの一部も形成するということを忘れないでください。ここで、表面的に色や材料、建物の高さを周囲と調和させることでよい結果を得るとは限りません。
第1に、「コンテクスト」、現状の風土の特徴を尊重し、そして周りの家や自然の風景との「バランス」を取ることで、新しい家にも付加価値がつき、個性的でありながらも周囲間での対話により成長していける街作りができるのです。家を建てるときには、モデルやステレオタイプにはとらわれないでほしいものです。